硬膜外麻酔(こうまくがいますい):下半身麻酔
最近の麻酔の中で、患者さんに一番貢献している麻酔です。
脊椎麻酔(せきついますい)と違うのは、皮、正確には硬膜(こうまく)一枚、手前で針を止める「寸止め」麻酔です。
この硬膜(こうまく)の内側がクモ膜下腔(くもまくかくう)という空間かあり、髄液(ずいえき)という透明な液体で満たされいます。
この中心に脊髄があります。
ですから、脊椎(せきつい)麻酔では、このくも膜下腔の中に局所麻酔を注入します。
一方、今お話しています、硬膜外麻酔は、硬膜を破る一歩手前で針先を止め(熟練を要します。)硬膜外腔(こうまくがいくう)という脂肪で満たされた部分に局所麻酔薬を注入します。
脊椎麻酔は、あまりに神経に近いため、麻酔は非常によく効きますが、反面、髄膜炎(ずいまくえん:脊髄が細菌感染におかされ、頭にも波及すると危険です)をおこす危険があり、通常一回の注入だけで終わります。
一方、硬膜外(こうまくがい)麻酔の場合、脊髄から少し遠いため、やや麻酔が効きづらいという欠点がありますが、髄膜炎(髄膜炎を起こしにくいという利点があります。
そのため、この硬膜外腔(こうまくがいくう)に直径0.5mm程度の細い管(硬膜外留置カテーテル:左図)を留置して、背中に絆創膏でとめておくと、仰向けになった状態で何度でも、この管を通じて局所麻酔を入れることができます。
なんといっても患者さんへの一番の福音は、術後病棟にかえられてからも、この管が使え、局所麻酔薬や鎮痛薬(麻薬)を継続して入れることができることです。
術後の鎮痛のために、複雑な機械を使わずに一定速度で、硬膜外腔に薬液をいれる装置(持続注入装置)が考案されています。
一例として風船式のものをご紹介します。
まず風船に痛み止め(局所麻酔薬や鎮痛薬)を入れて膨らませます。この風船が縮もうとする力で、薬液が自動的に押し出され、絶え間なく痛み止めをチューブを通して硬膜外腔(こうまくがいくう)に注入することができます。この方法で術後3日間程度は痛み止めを効かせることができます。(薬液を追加すればより長期間の鎮痛も可能です。
またこの管の途中にボタンがあり、このボタンを患者さん自身が押すと、鎮痛薬が少し多めに入り、患者さん自身で痛みのコントロールができるものもあり、非常に患者さんに好評です(右写真)。
最近は、この風船式に加え、真空式やスプリング式の持続注入器が開発されています。
麻酔専門医がいる病院では、下半身(首より下であれば可能)の手術の際には、硬膜外麻酔による術後鎮痛が常識となっています。
手術部位や大きさ、患者さんの状態にもよりますが、外科の胸やお腹をあける手術、あるいは婦人科の手術では、患者さんの方から「こうまくがい麻酔をおねがいします。」と希望されてもよいでしょう。
この希望にキチンと対応できる病院なら、まず麻酔専門医がいると思われますので、安心して手術が受けられます。
もし対応が曖昧なら、ちょっと心配です。